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2025/10/09借地権の権利金の扱いは?役割と会計処理・税金について解説
- 底地・借地
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-資格-
宅建士、不動産コンサルティングマスター、FP2級、定借プランナーR、認定空き家再生診断士
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-経歴-
株式会社MDIにて土地活用の提案営業に従事
東洋プロパティ㈱にて不動産鑑定事務に従事
株式会社リアルエステートにて不動産買取再販事業に従事
リースバック、買取再販、借地底地、共有持分、立退き案件を手がける

借地権は「地代を支払うことで、建物所有を目的として土地を利用できる権利」です。ただし「地代を払っているのに、なぜ権利金も必要なのか」と疑問を持つ方もいるでしょう。
権利金の支払いは必須ではありませんが、地主・借地人の双方が正しく理解していないと、思わぬ支出につながる可能性があります。
本記事では、借地権における権利金の役割や会計処理、関連する税金について解説します。
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Contents
借地権における権利金の役割

地代も権利金も同じ「借地権を維持するために支払う金銭」ですが、厳密にはそれぞれ異なる役割を持ちます。
まずは借地権における権利金の役割と、保証金や敷金など、不動産取引で発生する類似した一時金との違いについて見てみましょう。
権利金は借地権設定のための「対価」
借地人は、地主が所有する土地に借地権を設定することで、借地として自分の建物を所有するために土地を使用する権利を得ます。それと同時に、借地権の設定により、地主は自分で自由に土地を利用できなくなり大きな制限を受けます。
権利金は、その「借地権を『設定する対価』として支払う一時金」です。対価であるため、原則として返還はされない性質の金銭です。
これに対し、毎月支払う地代は地主が持つ「底地(借地以外の部分)」を利用する対価として支払います。なお、権利金を支払う契約では地代は底地部分に相当する水準(通常の地代)、権利金がない契約では土地全体に相当する水準(相当の地代)となるのが一般的です。
権利金と保証金・敷金・礼金・更新料の違い
借地権における権利金は、「借地権設定の対価で、返還されない金銭」でした。
それに対し、同じ不動産の賃貸借に関する一時金である保証金や敷金は、いずれも家賃や原状回復費用を回収できなかった場合に対する担保としての性質を持ちます。原則は担保であるため返還されますが、償却特約がある場合は返還されない部分が生じる点に留意が必要です。
また、更新料は権利金と同様に返還されない金銭ですが、賃料の補充や契約継続の対価等の性質を併有するものと解されています。
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借地権の権利金の目安はどのくらい?
大まかにいうと、都市部の住宅地の場合、借地権の権利金の目安は「市場価格の7割」程度です。
市場価格を知る方法には、大きく分けて「実際の市場価格から調べる方法」と「相続税評価額を基に算出する方法」の2つがあります。実際の市場価格は不動産売買のポータルサイトで販売価格を調べるほか、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」で実際の取引事例を検索することでも分かります。
(参考: 『国土交通省 不動産情報ライブラリ』)
近隣に似た条件の土地がなく実勢の相場が分かりにくい場合に参考になるのが、相続税評価額の算定に用いる国税庁の「路線価(または評価倍率)」です。「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で対象地の路線価(1㎡あたり・千円単位)を確認し、地積を掛ければ概算額を把握できます。
(参考: 『国税庁 路線価図・評価倍率表』)
相続税評価額は市場価格の8割程度に設定されているため、0.8で割り戻すと市場価格に近い額が算出できます。算出額に、同じく路線価図から分かる借地権割合(土地全体の権利に対する借地権の割合)を掛ければ権利金のおおよその目安が計算可能です。
<計算例>
路線価:350C(=1平方メートルあたり35万円、借地権割合70%)
地積:200平方メートル
権利金の目安:350×200÷0.8×0.7=6,125万円
住宅地の場合、借地権割合が60%〜70%が一般的なので「市場価格の7割程度」が目安となるわけです。
関連記事:借地権の評価額はどう決まる?相続時にも使える基礎知識と計算方法を解説
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借地権の権利金に対する会計処理と税金(借主側)

ここからは、借地権の権利金に関する会計処理と税金について解説します。まずは借主が事業のために土地を借りるケースを取り上げ、権利金の扱い方と仕訳を見ていきます。借地権の種類によって処理が異なる場合があるため、その違いも押さえておきましょう。
権利金を支払ったとき(借地権設定時)
権利金は借地権設定の対価であるため、勘定科目は「借地権」として仕訳します。取得に伴う仲介手数料なども借地権を得るための支出にあたるため、併せて借地権として計上します。
借地権は原則「無形固定資産(形はないが収益を得るために長期利用する資産)」として資産計上します。
仕訳の形は以下のとおりです。
例:権利金500万円、仲介手数料20万円を普通預金から支払った場合
| 借方 | 貸方 | ||
| 借地権 | 5,200,000 | 普通預金 | 5,200,000 |
借地権を償却するとき
固定資産の中には、減価償却(資産価値の減少分を一定期間に分けて費用計上する)が可能なものがあります。
土地は価値が時間で減らないため減価償却できませんが、借地権は場合によって扱いが異なります。普通借地権は契約更新が可能で耐用年数が実質なく、減価償却は行いません。一方、契約満了で必ず権利が消滅する定期借地権は、契約期間を耐用年数として減価償却できます。
仕訳例は以下のとおりです。
例:契約期間50年、取得費用(権利金を含む)2,000万円の借地権を年度で償却した場合
| 借方 | 貸方 | ||
| 減価償却費 (または長期前払費用償却) |
400,000 | 借地権 (または長期前払費用) |
400,000 |
関連記事:借地権と減価償却の関係は?仕組みと会計処理を分かりやすく解説
借地権を売却したとき
売却時には、売却時点の借地権の帳簿価格と売却額の差額を「譲渡損益」として計上します。ここで帳簿価格とするのは、定期借地権では償却により金額が減少している場合があるためです。
差額がプラスなら「固定資産売却益(利益)」、マイナスなら「固定資産売却損(損失)」として仕訳します。
例1:帳簿価額600万円の借地権を800万円で売却し、代金が普通預金に振り込まれた場合
| 借方 | 貸方 | ||
| 普通預金 | 8,000,000 | 借地権 固定資産売却益 |
6,000,000 2,000,000 |
例2:帳簿価額600万円の借地権を500万円で売却し、代金が普通預金に振り込まれた場合
| 借方 | 貸方 | ||
| 普通預金 固定資産売却損 |
5,000,000 1,000,000 |
借地権 | 6,000,000 |
また、借地権の売却で売却益が出れば譲渡所得税の対象となります。所有期間が5年以下なら「短期譲渡所得」として約39%、5年を超えると「長期譲渡所得」として約20%の税率が適用されます。
関連記事:借地権の会計処理を徹底解説!減価償却の要否からケース別の処理方法まで
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借地権の権利金に対する会計処理と税金(地主側)

地主側が土地の賃貸借を事業として行っている場合や、法人が土地を第三者に貸している場合にも会計処理が必要です。
受け取った権利金の処理は、個人か法人かだけでなく、権利金の金額や計上方法によっても異なります。
ここからは、地主側における権利金の会計処理について解説します。
権利金を受け取ったとき(借地権設定時)
借地権設定で受け取った権利金は、地主側では原則「権利金収入」として仕訳します。ポイントは、借主にとっては「資産」、地主にとっては「収益」として扱う点です。
例:地主が借地権設定の対価として100万円を現金で受け取った場合
| 借方 | 貸方 | ||
| 現金 | 1,000,000 | 権利金収入 | 1,000,000 |
受け取った収益は原則「不動産所得」として、個人地主は所得税、法人地主は法人税の課税対象になります。
ただし、権利金が土地の時価(評価額)の2分の1を超えるほど多額な場合は、土地の一部売却と同じとみなされ、「譲渡所得」として分離課税されます。
権利金ではなく「前払地代方式」による節税も可能
前述のとおり、地主側は権利金を受け取ったとき原則として収益を一括計上しますが、その分税額も大きくなります。
同じ一括受け取りでも「前払地代方式」を採用すれば、収益を各年度に分散計上できるため節税が可能です。
ただし、この方式を選べるのは更新がなく契約期間が固定されている「定期借地権」の場合のみです。契約時に借地期間分の地代を一時金で受け取り、契約期間に応じて毎年分割して経費化することで税負担を軽減できます。
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借地権の権利金支払いがない場合は「認定課税」されてしまう?

権利金には「地主の収益に対する補填」の側面がありますが、契約時に多額の金銭をやりとりするため、借主には初期費用の負担、地主には税負担が生じます。
そのため、権利金を少なくしたりなくしたりすることを検討する方もいるかもしれません。ですが、やりとりを省いた場合、扱いによっては後から課税される可能性があります。
認定課税とは?
借地契約時には、借主が地主に対して市場価格の6割〜7割程度の権利金を支払うのが通例です。
権利金を低く抑えれば税負担も減るように思えます。しかし相場より著しく低い、またはない場合、税務署は「実質的に贈与があった」と判断して課税します。
贈与税や所得税は利益に応じて公平に税を負担する仕組みです。権利金という対価なしに借地権を得て土地を使う利益を得れば、その分に課税されるのは当然という考え方です。これを「権利金の認定課税」と呼びます。
借地権の権利金の認定課税を避ける方法
前述のとおり、認定課税は「得た利益に対して相当の税金を納める」ための制度であり、権利金の支払いが少ない・ないからといって必ず適用されるわけではありません。
回避方法の一つ目は、更地価格の年6%程度を目安とした「相当の地代」の支払いです。通常より高めの地代を支払えば、権利金分の対価を地代で支払ったとみなされます。
二つ目は「土地の無償返還に関する届出書」の提出です。借地契約で無償返還を定め、税務署に届出書を提出すれば「借地権設定による利益はない」と判断され、認定課税を回避できます。
ただし、この届出書を利用できるのは地主・借地人のいずれかが法人である場合に限られます。
関連記事:借地権の月々の地代には目安がある!?計算方法と金額設定について解説
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まとめ

権利金は契約時に支払う返還されない一時金であり、「借地権の設定による対価」としての役割を持ちます。支払いは通例ですが金額の目安に幅があり、契約ごとに有無や額は異なります。
また、事業として借地契約を結ぶ場合は、契約時・償却時・売却時などの会計処理が所有権とは異なる部分もあります。専門家に相談しながら進めることが大切です。
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