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2025/05/21最終更新⽇時
2025/05/21借地権の月々の地代には目安がある!?計算方法と金額設定について解説
- 底地・借地

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借地権を所有している方や土地を貸している方にとって、適切な月々の地代設定は重要な課題です。
地代が高すぎれば借地権者の負担が大きくなり、低すぎれば地主の収益が損なわれてしまいます。しかし、地代が適切かどうかを知るためには目安が必要です。
本記事では、月々の地代の目安を算出するための主な計算方法、適切な金額設定のポイントについて詳しく解説します。
地代には「通常の地代」と「相当の地代」の2種類の基準がある

借地権の地代は対象となる土地や契約内容によっても変わりますが、同じ土地でも権利金の有無によって異なります。
まずは借地権の基本的な仕組みと2種類の地代の違い、権利金について見てみましょう。
借地権の基本的な仕組み
借地権とは、建物を建てる目的で地主が所有する土地を借りる権利のことです。借地権者は、その対価として地代を地主に支払います。これは、土地を完全に所有する「所有権」とは異なり、地主が土地を貸し出すことで、自由に使用する権利が一部制限されるためです。
その代わりに地主は、底地権者として地代や更新料、借地の条件変更に伴う承諾料などを受け取る権利(底地権)を持ちます。
借地権の地代は、契約時に権利金が支払われたかどうかによって、「通常の地代」と「相当の地代」の2種類に分かれます。両者の違いや権利金の考え方については、後ほど詳しく見ていきます。
通常の地代とは
前述の通り、借地権が設定された土地(底地)の権利は、借地権者が持つ借地権部分と地主が持つ底地権部分に分かれます。
通常の場合、借地権設定に対する対価は「権利金」として契約時に一括で支払います。
通常の地代とは、その名の通り土地全体からすでに対価を支払った借地権部分を除いた「底地」部分の使用に対して支払う地代です。
通常の地代は底地の利用に対する対価のため、自用地(自分で使用する際の土地の価格)に土地に対する底地権の割合を掛け、さらに一定割合を掛けて算出します。
具体的な計算例と目安については後で詳しく解説します。
相当の地代とは
通常の地代に対して、借地権設定時に権利金の支払いがなかった場合に支払う地代を「相当の地代」と呼びます。借地権の対価を支払っていないため、相当の地代は自用地全体の価格に一定割合を掛けて算出します。
ただし、相当の地代が用いられるケースは多くありません。
借地権は長期間にわたり借主に強い権利を与えるため、地主は正当な理由がない限り契約更新を拒絶できません。そのため、地主が受ける土地利用の制約や不利益を補う意味で、一時金として権利金を支払うのが一般的です。
このため、相当の地代を支払う形式は親族間の契約など、一部の事例に限られます。
借地権における権利金と計算方法
前述の通り、借地契約における権利金とは、借地権設定の対価として契約時に支払われる金銭を指します。権利金の金額は、自用地価格に借地権割合を掛けた金額が目安です。
借地権割合は一律ではなく、自用地としての土地の価値と同様に、対象となる土地の利便性や需要によって異なります。借地権割合は、国税庁の「路線価図・評価倍率表」を用いて調べることが可能です。
(参考: 『国税庁 財産評価基準書 路線価図・評価倍率表』)
路線価図には、場所ごとに路線価の価格を示す数字と、借地権割合を示すアルファベットの組み合わせが記されています。例えば「300C」とあれば、「1平方メートルあたりの路線価は30万円(=300千円)で借地権割合は70%」であることが分かります。
厳密には道路との接道具合や土地の形状などに応じた補正が加えられますが、路線価図を用いれば、おおよその自用地価格を把握することが可能です。
例えばこの土地が100平方メートルであれば(補正を考慮しない場合)、自用地価格は3,000万円となるため、その70%、つまり2,100万円が権利金の額の目安です。
関連記事 : 借地権の費用は高い?借地料や権利金などの詳細を解説
借地権の月々の地代の計算方法と具体例

次に、実際に「通常の地代」「相当の地代」それぞれ地代が月々どのくらいになるのかの目安について、具体例を挙げて計算してみましょう。
通常の地代の計算例
前述の通り、「通常の地代」は借地契約時に地主に借地権の対価として権利金を支払っているため、月々支払う地代は底地権に関する使用料のみになります。
通常の地代の算出には、「周辺地域の地代の調査に代わって、実務上地代を算定するために簡便的に用いられているもの」として、以下の計算式が使用されます。
通常の地代(年額)=自用地価額×(100%-借地権割合)×6%
先ほどの「自用地価格が3,000万円で借地権割合が70%」という例に当てはめると、以下のようになります。
通常の地代(年額)=3,000万円×(100%-70%)×6%=54万円
従って、年額54万円を月々の金額に換算した「4.5万円」が毎月支払う地代の目安です。
相当の地代の計算例
借地契約時に権利金を支払わない場合に設定される「相当の地代」では、土地の使用料として、底地と借地の両方を含んだ金額を月々支払います。
相当の地代を算出するための計算式は以下の通りです。
相当の地代(年額)=自用地価額×6%
先ほどの「自用地価格が3,000万円」の例にあてはめると、次のように求められます。
相当の地代(年額)=3,000万円×6%=180万円
従って、年額180万円を月々の金額に換算した「15万円」が毎月支払う地代の目安となります。
借地権の月々の地代の支払い方で相続税額も変わる
「通常の地代」と「相当の地代」は、契約期間によっては支払総額に大きな差が出ないこともあります。しかし、地代の支払い方によって、相続税額には大きな違いが生じる可能性があります。
権利金の支払いがない「相当の地代」方式で土地を借りている場合、相続税の課税基準となる借地権評価額は、実際に支払っている地代が「通常の地代」や「相当の地代」と比べて多いか少ないかによって変わります。
実際に支払っている地代が通常の地代より少ない場合、借地権評価額は、権利金を支払っている場合と同様に「土地価格 × 借地権割合」で算出されます。
一方、支払地代が相当の地代を上回っている場合、借地権の価値はないと判断され、借地権評価額は0円となります。つまり、この場合は借地権に関する相続税は発生しません。
地代の設定の際には、支払い方法も含めて相続時のことも考慮して決定するとよいでしょう。
借地権の月々の地代は適切?相場の算定手法5つ

月々の地代を決定する方法には、「通常の地代」や「相当の地代」といった相続税上の観点に基づくもの以外にも、さまざまな方式があります。
次に、借地権の地代の相場を計算する主要な方法について簡単に見ていきましょう。
更地価格を基準とした方法
更地価格を基に地代の相場を計算する方法は、土地の価値を直接反映できる点が特徴です。この方法では、「更地価格×1~1.5%(年率)」という計算式が使用されます。
国税庁が公表している「路線価」は、更地価格のおおよそ80%が目安とされているため、路線価を0.8で割ることでおおよその更地価格を求めることが可能です。
例えば、土地面積が100平方メートルで、路線価が1平方メートルあたり20万円の場合、
更地価格は「100平方メートル×20万円÷0.8=2,500万円」となります。
この更地価格に1~1.5%を掛けると、年間地代は25万円~37万5,000円、月額ではおよそ2万1,000円~3万1,000円が目安となります。
公租公課倍率法
「公租公課倍率法」は、土地に課される固定資産税や都市計画税などの税額を基に地代を算出する方法です。具体的には、年間の固定資産税と都市計画税の合計額に対し、住宅地であれば3~5倍、商業地であれば5~8倍といった倍率を掛けて算出します。
例えば、固定資産税評価額が1,000万円の住宅地の場合、固定資産税は「1,000万円×1.4%=14万円」、都市計画税は「1,000万円×0.3%=3万円」で、合計は17万円です。これに3~5倍を掛けると、年間の地代相場は51万円~85万円、月額では約4万3,000円~約7万1,000円となります。
なお、固定資産税評価額は、自治体から送付される納税通知書で確認できます。
積算法(利回り法)
「積算法(利回り法)」は、土地を運用した場合に期待される利回りと、実際にかかる諸経費を基に地代を計算する方法です。
計算式は、「更地価格×期待利回り+諸経費(固定資産税や都市計画税など)」となります。ここでいう期待利回りとは、投資額に対してどれだけの利益が見込めるかを示す割合であり、借地権においては2%程度が一般的です。
例えば、更地価格が1,000万円、期待利回りが2%、諸経費が年間50万円の場合は、
1,000万円×2%+50万円=年間70万円となり、月額に換算すると約5万8,000円が目安となります。
収益分析法
収益分析法は、底地の上に店舗などの事業用建物を建てる際に用いられる計算方法で、年間の収益や経費を基に地代を算出します。
例えば、商業施設を建設予定の土地で、年間の売上が3,500万円、運営コストが2,000万円と見込まれる場合は、差額の1,500万円から適切な割合を地代として設定します。
ただし、この方法は事業用物件に限定されるものであり、居住用の住居には使用できません。
賃貸事例比較法
賃貸事例比較法は、底地の周辺にある土地の地代と比較して、地代を設定する方法です。
例えば、同じエリアで面積や駅からの距離が近い土地の月々の地代が8万円だった場合、対象となる土地の地代も8万円程度が相場と推測できます。
土地の条件が大きく異なる場合には適用が難しい方法ですが、実際の市場価格を反映しやすいため、地主と借地人の双方が納得しやすい金額を設定しやすいという特徴があります。
関連記事 : 借地料の相場を徹底調査!地代の目安とメリット
借地権で適切な地代を設定するポイント

地代の目安を算出する方法にはいろいろありますが、地代の設定にあたってはそれ以外にも考慮すべき点があります。
以下では、地代設定のポイントについて確認しておきましょう。
地代の相場を把握する
地代を変更するには相応の理由が必要ですが、理由があっても借地権者が同意するとは限りません。相場から大きく外れた地代を設定すると、将来的に価格交渉の請求や未払いなどのトラブルにつながるおそれがあるため、地代の設定は慎重に行う必要があります。
まずは、周辺地域の借地事例や地価公示、路線価などの公的データを参考にし、条件の似た土地の地代相場を把握しましょう。
将来の土地価格の変動を考慮する
建物の賃貸借契約は通常2年程度の契約期間であるのに対し、借地契約は10年単位の長期にわたるのが一般的です。
そのため、契約期間中に土地の価格や経済情勢が変化する可能性も考慮しなければなりません。契約時には、現在の地代相場だけでなく、将来の価格動向や税制の変化も見据えて地代を設定することが大切です。
専門家に評価してもらう
「周辺の事例による相場の調査」や「将来的な土地の価値の変化の予測」など、専門家でない一般の地主が適切に相場を把握したうえで地代を設定するのは難しいでしょう。
そのため、地代の相場や適正な金額を正確に知りたい場合には、不動産鑑定士などの専門家に評価を依頼するのが望ましい対応といえます。
借地権の月々の地代を値上げ・値下げする方法はある?

仮に専門家に相談した上で地代を設定したとしても、経済情勢や土地価格の推移を完全に予測することはできません。地主・借地権者の双方にとっても、周辺の相場や経済的事情を踏まえ、地代の変更を希望する状況が生じる可能性は十分にあります。
次に、地代を変更したい場合に適用される規定や、その具体的な方法について解説します。
借地借家法上の規定
まずは、現行の借地権の基となっている借地借家法において、地代の変更がどのように定められているかを確認してみましょう。
借地借家法第十一条では、以下の理由により現在の地代が「不相当」と判断される場合、地主・借地権者のいずれからでも地代などの金額について増減の請求を行うことができると定められています。
- 土地の租税や公課の増減
- 地価の上昇や下落
- 経済事情の変動
- 近隣の類似土地の地代との比較
(参考: 『e-gov 借地借家法第十一条』)
ただし、「一定期間地代を増額しない」という特約がある場合は、その特約が優先されるという例外も設けられています。
地代改定の合意が得られないときの対処法
借地借家法では「地代の増減を請求できる」と定められていますが、請求を受けた相手が納得し、合意に至るとは限りません。こうした場合にも、借地借家法は具体的な対応方法を定めています。
地代の増額を請求された借地人は、裁判で増額が正当と認められるまでは、自分が「相当と認める額」の地代を支払えばよいとされています。一方で、地代の減額を請求された地主は、裁判で減額が正当と判断されるまでは、自らが相当と考える額の請求が可能です。
その後、裁判により請求が認められた場合は、請求の時点までさかのぼって差額を精算することとなります。その際には、年1割(10%)の利息を付けて、借地人であれば支払い、地主であれば返還を行います。
地代が値上げされるケースは?相続時のポイントや流れについても解説
まとめ

借地権の適切な算定や月々の地代を設定する際には、更地価格や周辺の相場、将来の土地価格の変動、さらには経済情勢の影響など、さまざまな要素を考慮する必要があります。そのため、専門的な知識がないと、正確な判断を下すのは難しいのが実情です。
特に、地代の算出には「更地価格を基準とした方法」「公租公課倍率法」「積算法」など複数の手法があり、自分の状況に最も適した方法を選ぶことは簡単ではありません。
地代をはじめとした借地契約に関するお悩みがある方は、ぜひ「おうちの相談室」へご相談ください。状況に応じた最適な解決策をご提案いたします。