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2024/01/15最終更新⽇時
2025/06/12所有権と借地権の違いは?基本からよくある疑問まで徹底解説
- 底地・借地

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今回は、家を建てる際に知っておきたい「所有権」と「借地権」についてまとめています。
家を建てるときは土地の所有権を得てから建物を建てる方法が一般的です。しかし、借地権によって土地を借り、そこに建物を建てることもできます。本記事では、それぞれの特徴やメリット・デメリットなど、両者の違いに絞って分かりやすく解説します。記事を参考に、あなたに合った土地選びの参考にしてください。
所有権とは

まずは、「所有権」について解説します。
土地の権利として一般的な所有権ですが、借地権について理解するためにも改めて特徴やメリット・デメリットをおさえておきましょう。
所有権の定義
所有権とは、土地や建物などの財産を「全面的に直接支配する」、つまり自由に使用、収益、処分ができる権利のことです。
また、所有権の対象物が無断で利用された場合には、その排除や損害賠償を請求する権利も有しています。
所有権は「物権」や「債権」などの財産権のなかで最も強い権利であり、法律によって幅広く保護されています。
所有権のメリット
所有権の主なメリットは、「資産性の高さ」「自由な利用が可能」「権利が原則として消滅しない」の3つです。
まず、所有権付きの土地は借地権と比較して不動産としての資産価値が高く、所有権を売買し自分のものとなった場合にはそれ自体が自分の資産となります。
また、土地の所有権を持っている場合には所有権の対象となっている土地に対して「家を建てる」「別の人に貸す」「売る」のいずれも法令の範囲内で自由に行えます。それだけでなく、所有権を購入し自分のものとなったため建て替えや増改築も自由です。
さらに、所有権は原則として消滅することがなく、契約期間や更新手続き、地代・更新料の支払いなどが必要ありません。そのため、長期的に安定して土地を保有・活用でき、将来にわたって資産を引き継ぐことも容易です。
所有権のデメリット
所有権には自由度や資産性といった大きな魅力がありますが、デメリットもあります。
土地や建物を購入する際には、物件価格に加えて物件価格の3~10%程度とされる登記費用や仲介手数料、不動産取得税など多くの諸費用がかかり、購入代金と合わせると取得時にまとまった資金が必要です。
さらに、所有後も土地と建物両方に対して固定資産税や都市計画税といった税金の負担が続くため、長期的な維持コストも無視できません。
所有権の取得方法
所有権は、主に「承継取得」と「時効取得」という2つの方法で得られます。
承継取得は、売買、贈与、交換、相続などにより所有者から譲渡されることで所有権を獲得する方法です。
一方、時効取得は他人のものを10年間または20年間、平穏かつ公然と所有の意思をもって占有し続けた場合に、自分のものになる制度です。取得時効が成立した場合には、所有者から譲り受けることなく自分に所有権が移動しますが、実際に所有権を主張するためには登記手続きが必要です。
借地権とは

土地の所有権とは異なり、他人の土地を借りて建物を建てる借地権にはさまざまな種類や特徴があります。
所有権に続いて、ここからは借地権の基本的な仕組みや特徴について見てみましょう。
借地権の定義
借地権とは土地を借りる権利のことです。借地に建物を建てた場合、建物の所有権は自分にあり、土地の所有権は貸主にあります。
借地権は契約の種類ごとに契約期間や利用条件が法律で定められています。毎月の地代の支払いのほかにも、更新が可能な借地権の場合には、一般的に一定期間ごとに契約の更新と更新料の支払いが必要です。
また、土地を所有せずに低コストで利用できる一方で、利用にはいくつかの制約があるのが特徴です。
借地権の種類
借地権は、大きく分けて旧借地法が適用される旧借地権と、借地借家法が適用される現行の借地権の2種類があります。現行の借地権はさらに「普通借地権」と「定期借地権」に分かれます。
旧借地権 | 1992年7月以前に締結した契約がこれにあたり、旧借地法が適用される。契約期間は建物の構造によって変わる。 | |
(現行)借地権 | 1992年8月以降に締結した契約がこれにあたり、借地借家法が適用される。契約期間は建物の構造で変わらず、以下の4種類がある。 | |
普通借地権 | 更新が可能で、契約は建物の構造にかかわらず最初が30年、1度目の更新で20年、2回目以降の延長で10年延長できる。 | |
定期借地権 | 定期借地権のなかで一番利用されており、存続期間は50年以上で更新できない借地権。契約終了後は更地にして貸主に返す必要がある。 | |
事業用借地権 | 事業目的の借地権で、存続期間は10年から50年。契約は更新できず、契約終了時には更地にして貸主に返却する必要がある。 | |
建物譲渡特例付借地権 | 契約期間終了後に借りた土地に借主が建てた建物を貸主が買い取る契約で、契約終了後は、土地と建物の所有権の両方が貸主へと移る。土地の使用目的は決められておらず、存続期間は30年以上。 |
関連記事:定期借地権と普通借地権は何が違う?それぞれの契約内容やメリット・デメリットを徹底解説!
借地権のメリット
借地権の一つ目のメリットは、所有権に比べて初期費用が安く抑えられる点です。一般的に権利金の支払いはあるものの、土地を購入する必要がないため、まとまった資金がなくてもマイホームが手に入れられます。
また、定期借地権を除いて、借地権は契約の更新ができます。そのため、契約更新すれば長期間借りることも可能で、必要に応じて土地利用の見直しや柔軟な対応がしやすいのも特徴です。
さらに、土地にかかる税金を支払う必要がない点もメリットです。通常、土地には固定資産税と都市計画税がかかります。しかし借地権の場合は、土地の所有者は自分ではないため、固定資産税と都市計画税は支払う必要がありません。
建物の所有者は自分なので、建物にかかる固定資産税と都市計画税は支払わなければいけないものの、資金面や税金面での負担を軽減しながら長期間にわたり土地を利用できるのが大きな魅力です。
借地権のデメリット
借地権のデメリットとしてまず挙げられるのは、土地そのものが自分の資産にならない点です。借地権はあくまで「土地を借りる権利」であり、将来的な資産価値の上昇や資産形成の恩恵を直接受けることはできません。
また、土地の利用が自由ではない点も大きなデメリットです。借りた土地の場合、建物の売却や建物の改築を自由に行うことができません。
貸主の承諾を得ることができれば建物の売却や改築は可能ですが、その際に承諾料を求められることもあります。承諾料の相場は借地権価格の3~5%程度が目安とされており、少なくない金額の支払いが必要です。
さらに借地権は土地を購入するためのお金はかからないものの、毎月の地代を貸主に支払わなければなりません。長期間借りる場合、毎月の地代の総額が土地を購入する費用より大きくなることもあるので注意しましょう。
借地権の取得方法
借地権は、土地の所有者(地主)と借地契約を結ぶことで取得します。
契約時には、一般的に「権利金」と呼ばれる一時金を地主に支払うケースが多く、その金額や支払いの有無は土地の条件や地域によって異なります。
契約が成立すると、定められた期間や条件に従って土地を利用することができます。
所有権と借地権の5つの違い
ここでは所有権と借地権について、主な5つの違いに絞って比較しやすいように表にまとめています。
比較項目 | 所有権 | 借地権 |
土地の利用自由度・制限 | ・法令の範囲内で自由に利用・処分できる ・建物の建築・改築・貸与も自由 |
・地主の承諾が必要な場合が多く、利用方法や建物の増改築に制限がある |
土地の資産価値 | ・土地自体が資産となり、評価額や担保力も高いため、住宅ローンの審査でも有利とされる場合が多い | ・所有権に比べて資産価値は低い傾向があり、担保評価も限定される場合がある |
維持費用・負担 | ・固定資産税や都市計画税などの税負担が発生するが、地代や更新料は不要 | ・毎月の地代や更新料、場合によっては承諾料の支払いが必要・土地の固定資産税はかからず、建物分のみ税金を支払うのが一般的 |
売却・譲渡時の権利移転 | ・自由に売却・譲渡が可能で、第三者への処分も法令の範囲内なら制限がない | ・売却や譲渡には地主の承諾が必要となることが多く、価格も所有権より低くなる傾向がある |
相続・贈与時の権利移転 | ・相続や贈与による名義変更が自由で、手続きも比較的簡単 | ・相続では地主の承諾は不要だが、贈与や譲渡の際は契約条件によって地主の承諾が必要となり、手続きや費用の負担が発生することがある |
一言でまとめると、「自由度と資産性が高い分、入手費用が高い」のが所有権であり、その対極にあるのが借地権と捉えておくとよいでしょう。
取得するなら借地権?所有権?

所有権と借地権、両者の違いが分かったところで、次に気になるのが「自分にとってはどちらがよいのか」でしょう。
次に、所有権と借地権、それぞれに向いている人について簡単に解説します。
借地権より所有権が向いている人
所有権が向いているのは、長期的に資産を形成したい人や、土地や建物を自由に活用したい人です。所有権を持てば、土地や建物を自由に売却・貸与・改築でき、将来その資産価値が上昇した場合も自分のものとして確保できます。
また、住宅や土地を家族に相続したい場合も、所有権であれば手続きが比較的簡単で、地主の承諾といった制約を受けずにスムーズな名義変更や贈与が可能です。
このように、資産運用や建て替えを見据えた長期的な利用、あるいは相続までを重視したい方には、所有権の取得が適しています。
所有権より借地権が向いている人
初期費用を抑えてマイホームを手に入れたい人には、借地権が向いています。借地権付き物件は、同じ土地を所有権で購入する場合に比べて60~80%程度の費用で済むことが多く、無理のない資金計画でマイホームを実現しやすい点が魅力です。ただし、物件によっては住宅ローンの審査が所有権物件より厳しくなる場合があるため、事前に金融機関の対応を確認しましょう。
また、人気エリアや都心部など、地主が土地を手放さないような好立地の土地が借地権として流通しているケースも多く、立地を優先したい人にも適しています。
さらに、事業目的で土地を利用したい場合には、事業用定期借地権を活用することで広い土地を購入せずに必要な期間だけ借りて事業を展開できます。初期コストを抑えつつ柔軟な土地活用が可能ですが、定期借地契約は原則として契約期間終了後に更新ができないため、撤退時や契約満了後の計画も含めた慎重な事業設計が必要です。
このように、資金計画や立地、事業プランに応じて柔軟に土地を利用したい方には、借地権が適しています。
所有権と借地権でトータルコストはどのくらい違う?

特徴や向き・不向きも重要な要素ですが、実際に居住用の建物を所有するために所有権と借地権を比較している人にとって、外せないのが「費用の違い」でしょう。
ここでは、コスト面から所有権と借地権について考えてみましょう。
所有権・借地権でかかる費用
以下は、居住用の住宅を所有する目的で所有権と借地権を取得した場合にかかる主な費用をそれぞれ時期別に分けて比較した表です。
費用区分 | 所有権 | 借地権 |
取得時 | ・土地購入代金 ・仲介手数料 ・契約書印紙代 ・登記費用など ・不動産取得税 ・建物建設費 |
・権利金(借地権の対価) ・仲介手数料 ・契約書印紙代 ・登記費用など ・不動産取得税 ・建物建設費 |
保有中 | ・土地と建物の固定資産税/都市計画税 ・建物の維持費 |
・毎月の地代 ・更新料 ・承諾料(増改築など) ・建物の固定資産税/都市計画税 ・建物の維持費 |
譲渡時 | ・譲渡所得税 ・仲介手数料 ・登記費用など |
・譲渡所得税 ・地主への承諾料 ・仲介手数料 ・登記費用など |
表からも分かる通り、所有権・借地権いずれも土地取得・維持に関する費用の支払い項目が多いため、比較する際にはトータルコストで比較した上で検討しましょう。
関連記事:借地権の費用は高い?借地料や権利金などの詳細を解説
所有権と借地権のコストシミュレーション
「トータルコストの比較」といっても実際には土地や借地権の条件や契約内容はさまざまであり、簡単に比較はできません。
しかし参考として、以下に30年間同じ2,000万円の土地に1,000万円の建物を保有した場合のコストを所有権と借地権で比較してみましょう。
(※金額は1万円未満四捨五入)
費用区分 | 所有権 | 借地権 |
取得時 | ・土地購入代金:2,000万円 ・仲介手数料:73万円 ・契約書印紙代:1万円 ・登記費用など:35万円 ・建物建設費:1,000万円 |
・権利金(借地権の対価):1,500万円 ・仲介手数料:56万円 ・契約書印紙代:1万円 ・登記費用など:28万円 ・建物建設費:1,000万円 |
保有中(30年) | ・土地と建物の固定資産税/都市計画税:483万円 ・建物の維持費:1,200万円 |
・地代:20万円(年額)×30年=600万円 ・更新料:なし(未更新) ・承諾料(増改築など):なし ・建物の固定資産税/都市計画税:343万円 ・建物の維持費:1,200万円 |
譲渡時 | ・譲渡所得税:なし(特例適用) ・仲介手数料:89万円(※2,500万円で売却と仮定) ・登記費用など:43万円 |
・譲渡所得税:なし(特例適用) ・地主承諾料:150万円 ・仲介手数料:56万円(※1,500万円で売却と仮定) ・登記費用など:28万円 |
試算の結果、30年間のトータルコストは所有権が4,924万円、借地権が4,954万円とほぼ同じ価格だったのに対し、売却額が異なるため最終的には借地権のほうが所有権より約1,000万円コストが高い結果となりました。
ただし取得時のコストは借地権のほうが低いため、ローンの金利や契約期間なども考慮して判断するとよいでしょう。
※本試算は一例であり、地代・権利金・税負担・承諾料などは契約条件や地域によって大きく異なります。また、譲渡所得税の非課税特例には適用要件があります。
所有権と借地権に関するQ&A

最後に記事の内容をふまえつつ、所有権と借地権に関する質問について簡単にまとめました。
Q1:借地権は建物所有目的でないと設定できない?
借地権は原則として「建物所有目的」で土地を借りる場合に設定される権利であり、建物を建てずに土地のみを利用する場合は借地権とは呼ばれません。
このため資材置き場や駐車場など建物所有を伴わない土地利用は、民法上の土地賃貸借契約として扱われます。同じ「地代の支払いにより土地を借りる」契約ですが、借地借家法の適用がないため契約期間や借主の保護内容も大きく異なる点に注意が必要です。
関関連記事:【借地借家法をわかりやすく解説】地主・借地人が知るべき権利と義務とは
Q2:借地権を無償で譲渡できる?
借地権を第三者に無償で譲渡したい場合は、原則として地主の承諾が必要です。地代の支払いが負担になり、借地権を手放したい場合には、売却だけでなく無償で地主に返還する方法も考えられます。
ただし、借地権は財産的な価値を持つ権利であるため、譲渡先が地主であっても無償で引き渡すと、贈与とみなされて贈与税が課される可能性があります。特に第三者に無償譲渡する場合は注意が必要です。
もっとも、建物が老朽化していたり、借地権の価値がほとんどないと判断される場合には、実質的に贈与とみなされず、課税が発生しないケースもあります。課税の判断は個別事情により異なるため、事前に税理士など専門家へ相談するのが安心です。
関連記事:借地の更新料は地主に支払うべき?更新料の相場や起こりうるトラブルについて
Q3:借地権を所有権に変更できる?
通常、借地権を所有権へ一方的に変更することはできません。ただし、地主と交渉して底地権(借地が設定されている土地の所有権)を買い取ることができれば、借地権と底地権が同一人物のもとに集まり、権利の合一によって借地権が消滅し、土地の所有権を取得することが可能になります。
このような変更を実現するには、底地の購入代金や登記費用などが発生します。実際に所有権化できるかどうかは、地主との合意が前提となるほか、契約内容や借地の種類によっては困難なケースもあるため、希望する場合はまず話し合いの機会を持つことが大切です。
Q4:借地権割合と所有権との関係は?
借地権割合とは、土地の所有権を100%の権利として考えたときに、借地権と底地権に分ける際の割合を指します。
例えば借地権割合が60%であれば、その土地の価値のうち60%が借地人の借地権、残り40%が地主の底地権という計算になります。借地権割合が高いほど、土地における借地権の財産的価値が大きくなることを意味します。
この割合は国税庁によって地域ごとに定められており、主に相続税や贈与税の計算、土地の評価に用いられます。ただし、これは税務上の評価基準であり、実際の取引価格とは異なる場合もあります。
Q5:借地権付き物件はローンや相続で不利になる?
借地権付き物件は、住宅ローンの審査や相続の場面で不利になることがあります。土地そのものを担保にできない借地権は担保価値が低く評価されるため、住宅ローンの審査が厳しくなったり、融資額が抑えられたりするケースも多いでしょう。
また、相続の際も地主が保有する底地権の分、借地権の評価額は所有権に比べて低くなります。相続税額が抑えられる点はメリットですが、相続した借地権を売却する場合には所有権と比較すると売却額が低くなりがちです。
まとめ

家などの建物を建てるには、土地が必要です。その際、所有権だけでなく、土地を確保する手段としての借地権についても理解しておくことが重要です。
所有権にも借地権にも、それぞれメリットとデメリットがあります。どちらが自分に適しているかは一概に判断できません。まずは両者の違いを正しく理解し、自分の条件に合った方法を選ぶことが大切です。
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