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2023/11/01最終更新⽇時
2023/11/01借地権の立ち退きとは?正当事由や立ち退き料の相場・交渉ポイントを解説
- 底地・借地

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借地権に関する立ち退き問題は、借地人(借地権者)と地主(土地所有者)の双方にとって重要な課題です。本記事では、立ち退きに関する基本的な知識や注意点を解説し、双方が円滑に問題を解決するための情報を提供します。
借地権とは何か?地主からの立ち退き要求の法的根拠

まずは、借地権の基本的な仕組みを解説するとともに、地主が借地人に立ち退きを求める場合に必要とされる法的根拠について詳しく説明します。
借地権とは?
借地権とは、他人の所有する土地に建物を所有するための権利です。借地借家法により、普通借地権の契約期間は30年以上と定められ、更新も可能です。地主が一方的に契約を解除することはできず、正当事由がなければ更新拒絶も認められません。
借地権には「地上権」と「賃借権」があり、それぞれ権利の強さが異なります。地上権は物権であり、地主の承諾なしに譲渡・転貸が可能です。一方、賃借権は債権であり、地主の承諾を得る必要があります。一般的な借地権は賃借権で設定されることが多いですが、橋や地下鉄など公共施設の建設には地上権が用いられることが一般的です。
近年の民間の借地契約では賃借権が主流ですが、用途によっては地上権も適用されるケースがあります。
地主が借地人に立ち退きを求める法的根拠
地主が借地人に立ち退きを求める場合には、「正当事由」と呼ばれる法的な根拠が必要です。正当事由の判断では、地主側の土地利用の必要性だけでなく、借地人の生活や事業への影響、代替地の提供や立退料の支払いなど、総合的な事情が考慮されます。
例1)地主の都合による立ち退き
- 建物の老朽化や再開発:建物の老朽化や再開発計画に伴い、土地を再利用する必要が生じた場合。
- 自己使用の必要性:地主自身が土地を使用する必要がある場合。
例2) 借地人の契約違反による立ち退き
- 地代の長期滞納:借地人が地代を長期間支払わない場合。
- 無断転貸や用途違反:地主の承諾なしに土地を第三者に貸したり、契約と異なる用途で使用した場合。
借地人にとっては、自己所有の建物を失うことになるため、正当事由の判断は厳格です。例えば、借地上の建物が賃貸物件として利用されている場合、入居者の生活への影響が大きいため、立退料の提示だけでは正当事由が認められにくいことがあります。
定期借地権の場合
定期借地権では契約更新がなく、契約期間が満了すると借地権は終了します。契約時点で明け渡しが合意されているため、通常の借地契約のように正当事由は必要ありません。
契約違反による契約解除
借地人が長期間地代を滞納したり、契約に違反した場合、地主は契約解除を求めることができます。ただし、解除が認められるには以下の条件が求められます。
- 違反の重大性
違反の程度が重大であり、地主と借地人の信頼関係が維持できないと判断されること。
- 事前の催告と猶予期間
解除の前に催告を行い、相当な猶予期間を設けること。
一方的な契約解除は認められず、法的な手続きを踏む必要があります。
借地権の立ち退き相場はいくら?

立ち退き料は、借地人が立ち退く際の補償として地主から支払われることが一般的ですが、交渉によって異なる場合もあります。金額は、正当事由の有無や地主との交渉、地域の慣行によって大きく異なります。
- 移転費用:引越し費用や新居の取得費用など、移転に伴う実費
- 営業補償(事業用物件の場合):営業の休止や移転に伴う損失の補償
- 借地権価格:借地権価格を考慮し、立ち退き料が算定されることがある
居住用物件の立ち退き料相場
- 引越し費用(10~30万円)
- 仲介手数料や礼金などの契約関連費用
- 新居との家賃差額補填(1~3年分)
- 迷惑料・慰謝料(交渉次第)
相場は100万円~200万円程度ですが、東京など都市部では高額になりやすく、地方では低めになる傾向があります。
事業用物件の立ち退き料相場
事業用物件の立ち退き料は、業種や規模によって大きく異なります。一般的な相場は以下の通りです。
- 飲食店:500万円~4,000万円(賃料の62~100ヶ月分程度)
- 小売店:300万円~500万円程度
- 事務所:300万円~600万円(賃料の約30ヶ月分程度)
- クリニック:5,000万円~2億円(賃料の250~400ヶ月分程度)
- 美容院:800万円~3,000万円(賃料の80~150ヶ月分程度)
立ち退き料には、営業休止補償、固定費補償、顧客損失補償、移転費用、迷惑料などが含まれます。ただし、これらの金額はあくまで目安であり、個々の状況によって大きく異なる可能性があります。
借地権の買取相場
借地権を売却する場合、その買取価格は「土地評価額 × 借地権割合」で算出されるのが一般的です。
- 借地人が地主に売却する場合:更地価格の50%程度
- 地主が借地人に買い取りを依頼する場合:更地価格の60~70%程度
また、地域ごとの借地権割合の目安は以下のとおりです。
- 東京都心部や商業地:70~90%
- 地方の住宅地:30~60%
例えば、300㎡の土地で路線価が10万円、借地権割合が60%の場合、借地権の評価額は「10万円 × 300㎡ × 60% = 1,800万円」となります。
借地権割合は国税庁の「財産評価基準 路線価図・評価倍率表」で確認できます。また、借地権価格は契約内容、地主の売却承諾内容、所在地、周辺環境、用途地域、接道状況などの要因によっても変動します。
繰り返しますが、あくまで目安であり、実際の取引価格は地主との交渉次第で変動します。不動産鑑定士など専門家に査定を依頼するのがおすすめです。
借地権の立ち退き料の計算方法

立ち退き料は、借地権価格を参考にしつつ、地主・借地人双方の事情や立ち退きに伴う損失補償などを踏まえて決定されます。明確な計算式があるわけではなく、交渉や裁判によって金額が決まります。
借地権価格の算出
借地権の価格は、以下の式で目安を算出できます。
借地権価格 = 更地価格 × 借地権割合
例)更地価格4,000万円 × 借地権割合60% = 2,400万円
立ち退き料に影響する要素
立ち退き料は「借地権価格 × 一定割合」という単純な計算ではなく、以下の要素を考慮して交渉・裁判で決まります。
例1)借地人に契約違反がある場合
借地人が長期間にわたり地代を滞納していた場合、地主は契約解除を求めることができます。この場合、借地人の保護が限定的となり、立ち退き料は低額、もしくは支払われないこともあります。
- 借地権価格:2,400万円
- 立ち退き料の補償割合:10%(契約違反があるため最低限の補償)
- 立ち退き料 = 2,400万円 × 10% = 240万円
例2)地人の住み替えが困難な場合
借地人が高齢で、転居先の確保が困難な場合、裁判所が借地人の生活への影響を考慮し、地主に対して高額な立ち退き料の支払いを求める可能性があります。
- 借地権価格:2,400万円
- 立ち退き料の補償割合:80%(住み替え困難なため補償額が高い)
- 立ち退き料 = 2,400万円 × 80% = 1,920万円
例3)事業用物件で営業補償が必要な場合
借地上で飲食店を長年営業しており、移転によって顧客を大幅に失う場合、営業補償が必要となることがあります。この場合、立ち退き料は高額になりやすく、数千万円規模になることもあります。
- 借地権価格:2,400万円
- 営業補償(年間利益の2年分):1,000万円
- 立ち退き料の補償割合:70%(事業補償を含める)
- 立ち退き料 = 2,400万円 × 70% + 1,000万円 = 2,680万円
交渉には専門家の助けが必要?
立ち退き料には法律上の明確な基準がなく、地主と借地人の交渉によって決定されます。交渉がまとまらない場合、最終的には裁判で決着をつけることもありますが、時間や費用がかかるため、弁護士や不動産の専門家に相談しながら進めるのが望ましいでしょう。
専門家に依頼することで、地主と借地人の間のトラブルを未然に防ぎ、より納得のいく形で合意を得ることができます。
借地権の立ち退きを迫られたら?交渉ポイントと契約注意事項

借地人には法律上の権利があり、地主の一方的な要求で立ち退く必要はありませんが、できるだけ穏便に解決したいのではないでしょうか。そこでこのセクションでは、借地権の立ち退きを求められた際の交渉ポイントと、契約における注意事項を解説します。地主側の視点も踏まえ、双方にとって円満な解決を目指す方法を紹介します。
立ち退きの理由を確認する
地主から立ち退きを求められた場合、まずはその理由を明確に確認しましょう。
- 正当事由に該当するのか?
- 契約更新の拒否に法的根拠があるのか?
- 交渉の余地があるのか?
これらを把握したうえで、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることが大切です。
建物買取請求権を活用する
借地契約満了時、借地権者は建物買取請求権を行使し、地主に建物の買取を求めることができます。地主は原則として拒否できず、買取価格は時価で決定されます。
立ち退き時にこの権利を主張すれば、適正な補償を得る交渉材料になります。特に高齢の借地人にとって、移転負担の軽減策として有効です。
ただし、以下の場合、買取請求権は行使できません。
- 契約違反による解除(地代滞納など)
- 定期借地権(満了時に請求不可)
- 合意解除(双方の合意による契約終了)
また、この権利を「代替地交渉」の交渉材料として活用し、地主に有利な選択肢を提示することも可能です。次項で詳しく説明します。
代替地や代替物件の提供を交渉材料にする
地主と交渉し、代替地や代替物件を提供してもらうことも一つの選択肢です。特に高齢の方にとって、長年慣れ親しんだ地域を離れることの精神的負担は大きいため、代替地を確保することで円満な解決につながることがあります。
- 近隣の土地や建物への移転を提案する
- 土地の一部を借地として継続使用できるか相談する
地主側としても、立ち退き料を支払うよりも代替地を提供する方が負担を抑えられるため、交渉がまとまりやすくなります。
代替地交渉では以下の点を明確にすることが重要です。
- 代替地の場所と広さの条件
- 建物の建築費用の負担割合
- 引っ越し費用の負担
交渉をスムーズに進めるため、建物買取請求権と組み合わせた提案を行うことが効果的です。
駐車場の契約内容を確認する
借地上に駐車場を設置している場合や、借地契約と一体で駐車場を利用している場合、立ち退き交渉において特別な注意が必要です。特に、駐車場の契約形態によって補償の対象が変わるため、事前に契約内容を確認することが重要です。
まず、駐車場が借地契約に含まれている場合は、立ち退き交渉の対象となり、補償の範囲に影響を与える可能性があります。この場合、立ち退き料の計算には、駐車場の移転費用や代替措置の提供が考慮されることが多く、地主との交渉で有利な材料になり得ます。
一方で、駐車場のみが別契約になっている場合は、借地契約とは独立して扱われます。この場合、借地の立ち退きとは別に、駐車場の契約解除や移転についての交渉が必要になります。例えば、駐車場使用料の返還や代替駐車場の提供を求めることができる場合があります。
いずれの場合も、契約書の記載を確認し、駐車場の取り扱いについて地主と適切に交渉することが重要です。
借地権買取で注意すべき税金と節税対策

借地権の立ち退きに伴う税金は、その後の生活に大きく影響するため、正しい知識を持つことが重要です。立ち退き料は「譲渡所得」「一時所得」のいずれかに区分され、課税方法が異なります。また、65歳以上の方には税負担軽減措置があり、適切に活用することで節税が可能です。
立ち退き料にかかる税金の種類と課税額
立ち退き料には主に「譲渡所得」「事業所得」「一時所得」の3種類の所得区分が関わってきます。どの区分に該当するかによって、課税額が大きく変わります。
例えば、借地権を地主に譲渡する形で立ち退き料を受け取った場合は「譲渡所得」として扱われます。この場合、収入から取得費や譲渡費用を差し引いた額が課税対象となります。居住用の建物とともに譲渡した場合は、最大3,000万円の特別控除が適用される可能性があります。
事業を営んでいる場所での立ち退きで、売上や給与の補填として受け取る場合は「事業所得」となります。一方、これらに当てはまらない場合は「一時所得」として扱われ、最大50万円の特別控除後の金額の半分が課税対象となります。
また、公共事業による立ち退きの場合は、「収用等の5,000万円特別控除」が適用されることもあります。
税負担を軽減する特例措置と活用方法
借地権の立ち退きに伴う譲渡所得には、税負担を軽減できる特例措置があります。適用には一定の条件を満たす必要がありますが、活用すれば大幅な節税が可能です。
- 居住用財産の3,000万円特別控除
自己所有の建物と借地権を譲渡する場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。適用には、一定期間住居として使用していたことなどの条件があります。
- 収用等の5,000万円特別控除(公共事業による立ち退きの場合)
公共事業により土地や建物を譲渡する際、譲渡所得から最大5,000万円を控除できます。適用には、対象となる公共事業であることが必要です。
- 特定の居住用財産の買換え特例
立ち退き後に新たな住居を購入する場合、譲渡益への課税を繰り延べることが可能です。適用には、一定の居住期間や購入する新居の要件を満たす必要があります。
これらの特例を適用するには、確定申告が必須です。税務署への申告の際には、譲渡所得の内訳書や収用証明書などの添付が求められるため、事前に準備しておくことが重要です。適用の可否については、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
借地権の立ち退き交渉がこじれたら

借地権の立ち退き交渉がこじれた場合、貸主と借主の間でトラブルが長期化する可能性があります。借地権者(借主)は、正当事由がない限り、一方的に立ち退きを迫られることはありません。しかし、交渉がこじれると、法的手続きを含む対応が必要になるため、慎重に進めることが重要です。
貸主側の対応
貸主が借地権の返還を求める場合、単なる更新拒否ではなく、正当事由をより明確に提示する必要があります。例えば、建物の老朽化や土地活用の必要性などが考えられますが、単なる貸主の都合では認められにくいのが実情です。また、立ち退き料の提示が求められることもあり、交渉が長引く原因となります。
借主側の対応
借地権者は、契約が更新される権利を持っているため、強引な立ち退き要求には応じる必要はありません。ただし、貸主が裁判を起こす可能性もあるため、弁護士や専門家と相談しながら対応を進めることが重要です。また、立ち退きを受け入れる場合でも、適正な補償を求める交渉を行うべきでしょう。
解決策としての調停・訴訟
交渉が完全に決裂した場合、調停や裁判といった法的手段に進むことになります。裁判では、貸主が正当事由を証明できるかどうかが焦点となり、判決によって立ち退きの可否が決まります。ただし、裁判は時間と費用がかかるため、できる限り交渉や調停を通じて解決するのが望ましいでしょう。
優良な借地権買取業者に相談する
借地権を売却する際は、適正な価格で買い取ってくれる業者を選ぶことが重要です。まず、借地権の取引には専門的な知識が求められるため、マンションや戸建ての売買を中心とする業者ではなく、底地・借地権に特化した業者を選ぶと適正な価格での買取が期待できます。
次に、買取実績の豊富さも大切なポイントです。過去に多くの借地権を扱った実績がある業者なら、さまざまなケースに対応でき、スムーズな取引が可能です。業者のホームページで実績を確認したり、直接問い合わせてみるとよいでしょう。
複数の業者に相見積もりを依頼することで、より良い条件で売却できる可能性が高まります。
関連記事 : 底地や借地の買取不動産会社おすすめ5選!依頼時の注意点も解説
まとめ

借地権買取においては、仕組みと相場を正しく理解し、交渉成功のポイントを押さえることが重要です。交渉が決裂した場合は調停・裁判の選択肢もありますが、まずは話し合いでの解決を目指したいところでしょう。信頼できる専門家のサポートを受けることで、納得のいく解決策を見出せるでしょう。
リアルエステートの「おうちの相談室」では、地主さま・借地人さまとの関係が悪化しているケースでも、すべての交渉を当社が引き受け、弁護士や税理士との連携により最適な解決策をご提案いたします。まずは無料相談からお気軽にご連絡ください。借地権問題の解決に向けた第一歩を、専門家とともに踏み出しましょう。