借地借家法第10条と31条:対抗要件をわかりやすく解説

借地借家法とは、どのような法律でしょうか。この記事を読むことで、借地借家法第10条と第31条について知ることができ、その違いや気を付けるべきポイントについても理解することができます。

借地借家法とは?基本をわかりやすく解説

借地借家法第10条の概要

第10条では、借地権の対抗力に関する規定が定められています。以下が原文です。

借地借家法第10条

第十条 借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。

2 前項の場合において、建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。ただし、建物の滅失があった日から二年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る。

借地権の対抗力とは?

第10条では、「借地権の対抗力」がキーワードです。例えばAが賃貸人、Bが賃借人である場合、Aが賃貸物を第三者Cに譲渡したとすると、賃借人Bは、賃貸物の新しい所有者であるCに対して、賃借権を主張したうえで物件を借り続けることができるか、という課題に直面します。不動産賃借権は登記が可能ですので、賃借権を登記していればCに対抗できるものの、賃借権の登記がない場合は、Cに賃借権を対抗できないというのが結論となります。

上記のような状況での問題点として、地主には登記の協力義務がないという点が挙げられます。借地権の中でも地上権に関しては地主に登記の協力義務があるのですが、賃借権にはありません。そのため、実際は賃借人が賃借権の登記を備えるのは難しいという現実があります。しかし、これでは賃借人が不利な状態に陥りますので、借地借家法という法律では、賃借人を保護する特別な定めが存在します。

登記が無い場合の対抗力の認識

それが第10条にある、登記が無い場合でも、借地権者が登記されている建物を所有する場合には対抗要件として認められるという部分になります。

民法の賃貸借では、登記のみが対抗要件になっていたため、借地借家法では、借地権設定者(賃貸人、地主)の力を借りる必要がなくても、借地権者だけで借地権の対抗力を備えることが可能な方法を与えました。
つまりこの10条の定めによって、借地権が登記に自分の力で借地権の対抗力を備えることができるようになったのです。

先ほどの登場人物に話を戻しますが、土地の譲受人のCの立場に立って考えてみると、CはBが借地権を持っていることを知ることは可能なのでしょうか。あくまで土地はAのものなので、土地の登記はAになっています。日本では、土地と建物は別の不動産として考えられるので、それぞれの登記ももちろん別になります。そして土地の登記記録に建物の登記記録は出てきません。Cが気付かぬ間に不測を被ることが予想されそうですが、借地借家法ではこの辺りの懸念は無いとしているようです。

なぜなら、不動産を買うときには必ず現地見分をするということが前提にあるからです。実際に、不動産を見ないまま登記記録のような書面だけで判断する人はいないのではないでしょうか。

このような理由から、建物の登記だけでも、借地権を保持していることを証拠付けるものとして十分と言われています。

以上の流れを確りと文章に記載したものが、借地借家法第10条です。

登記について

借地上の建物に登記を行うことで対抗力が生じるのですが、この建物登記は、具体的にどのような登記でしょうか。以下でご説明したいと思います。


① 表示と保存登記

表示の登記とは、不動産の物理的な所在などを示すものです。所有者名等が参考程度で記載されることになるので、所有者の公示の役割は最低限果たします。そして、保存登記にも対抗力が生じます。

② 本人名義以外

登記が建物の所有者本人以外の名義である場合の借地権対抗力を、判例では否定しています。 配偶者名義や長男名義の場合がよくあるケースです。本当の借地権者が誰か分からず透明性に欠けるという理由で、判例では借地権の対抗力を否定しています。

③ 借地上に複数の建物がある場合

判例では、土地全体に借地権の対抗力を認めるとしています。

そもそも建物登記に借地権の対抗力が認められている理由は、不動産の取引では現地見分をすることが前提になっているからでした。この理論でいくと、土地を見に行った際に、建物が複数建っていれば、すべての建物の登記記録を調べることが前提となります。そのうちの一つにある人物の名義の建物登記がある場合、他の物件も同じ人物の借地権と推測する十分な材料になるとされています。

④ 登記上の記載に相違がある場合

借地上の建物と、登記上の所在表記に相違があった場合でも、建物の同一性が認識できる程度の多少の相違であれば対抗力は維持されます。

以上、登記についていくつかのパターンをご紹介しましたが、1つだけ注意点があります。
建物は火災等で生滅してしまう可能性が十分に考えられるという点です。
火災等で借地権の効力を失効している最中に、建物が第三者に譲渡された場合、火災に見舞われた本人は住む場所を失うことになります。
このような場合に当事者を救う法律が、借地借家法に規定されています。

第10条の第二項において、『建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。ただし、建物の滅失があった日から二年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る。』と記載があります。

つまり、建物登記に代わる形で土地の上の見やすい場所に「掲示」を行うことで、対抗力が維持できます。

しかし注意点あります。例えば、借地権を設定して建物を建てたのにも関わらず建物登記をせず、その状態で火災により建物が滅失して「掲示」を行ったとします。そして建物を再築し、再築した建物に関しては登記をしたとします。このケースの場合、残念ながら対抗力は発生しません。10条で明文化されている「掲示」による対抗力は、前もって建物登記をしている者を対象とし、建物の滅失によって被るであろう不利益を回避しようとする対抗力です。

もともと建物登記を怠っていた場合、掲示を行ったとしても期間中の対抗力を備えることはできないので、注意してください。もちろん賃借人は、再築後に建物登記をした後に対抗力を備えることができます。

また、登記を行う際に一般的に気を付けるべきことを以下にまとめます。

必要書類の確認

登記に必要な書類を事前に確認し、全て揃えることが重要です。例えば、建物の図面、所有権証明書、印鑑証明書などが必要となる場合があります。

正確な情報の提供

登記申請書に記載する情報は正確である必要があります。誤った情報を提供すると、登記が無効となる可能性があります。

専門家の利用

不動産登記の手続きは複雑であるため、不動産登記の専門家や司法書士に相談することをオススメします。漏れを防ぐ対策を練りましょう。

登記費用の確認

登記には費用がかかる場合があります。事前に費用を確認し、必要な金額を準備しておくことが重要です。

変更時の再登記

建物の改築や増築、所有者の変更などがあった場合、再登記が必要となる場合があります。変更があった際は、再登記の手続きを忘れないようにしましょう。

期限の確認

一部の登記には有効期限が設けられている場合があります。期限を過ぎると再登記が必要となるので、期限を確認し、適切な手続きを行うことが重要です。

公示価格の確認

建物の公示価格を確認することで、適切な価格での取引や税金の計算が可能となります。

隣接地との境界確認

建物の境界や隣接地との関係を正確に確認し、トラブルを避けるための対策を講じておきましょう。

登記簿謄本の取得

登記が完了した後、登記簿謄本を取得しておくと、将来的なトラブルや手続きの際に役立ちます。

法改正のチェック

不動産に関する法律は随時改正されることがあります。実際に借地借家法も2022年5月に一部改正されています。最新の法律や手続きを常にチェックしておくことが重要です。

登記の際には、以上のようなポイントに気を付けるようにしましょう。

借地借家法第31条の概要

第31条では、建物賃貸借の対抗力に関する規定が定められています。以下が原文です。

第三十一条 建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。

第31条は、借地ではなく借家が論点となっている条文です。借家において、賃借人が登記以外で対抗力を備えるためには、どうしたら良いのでしょうか。第31条では『建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。』と記載があります。

つまり借家においては、「引渡し」が対抗要件になっています。要するに引き渡されて、そこに居住していれば良いということです。これは、賃借人にとっては非常に簡単なことですね。

まとめ

借地と借家それぞれの対抗力について記載された条文が、第10条と第31条でした。

以下にそれぞれの特徴を簡単にまとめます。

  • 借地権の対抗力
    登記による確保:借地権は、土地の所有者と借地人(借主)との間で成立する権利です。この権利は、登記によって第三者に対抗する力(対抗力)を持ちます。つまり、借地権が登記されていれば、土地の所有者が変わった場合でも、新しい所有者は登記された借地権を認める必要があります。
  • 長期的安定性
    借地権が登記されている場合、借地人は一定の期間、土地を使用する権利が確保されます。これは、とくに長期的な事業計画や住宅建設において重要な要素です。
  • 建物賃貸借の対抗力
    登記不要:一般的な建物賃貸借(アパートやオフィスなど)は、登記されることなく成立可能です。そのため、建物の所有者が変わった場合、新しい所有者に対して自動的に対抗力を持つわけでは無いため注意が必要です。

    契約と通知による確保:賃貸借契約によっては、新しい所有者に対しても賃貸借関係を継続する旨が定められている場合があります。また、一部の法制度では、特定の手続き(例えば新所有者への通知等)を経ることで、第三者に対抗する力を持つ場合もあります。

また借地借家法は、デジタル改革関連法に基づいて、2022年5月に改正されました。これまで、土地建物の賃貸借の一部については、電子契約が認められていなかったのですが、一定の契約以外については電子契約が可能になりました。ただし、すべての契約に電子契約が認められるわけではないので注意してください。具体的には「定期借地権契約」「定期建物賃貸借契約」の2つに契約に限って、電磁的記録の契約(電子契約)が認められているので覚えておくようにしましょう。

以上借地借家法10条と31条について解説しました。この記事が、借地借家法第10条と第31条についての理解を深めたい方にとって、参考になりましたら幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。