不動産売買で裁判になった事例とその回避法

家や土地などの不動産を売却する際は、一般的に不動産会社に仲介を依頼します。しかし、「任せておけば安心」と思っていると、必ずしもそうではありません。

不動産会社の処理や確認が不十分であるため、売主と買主の間でトラブルが発生するケースは多いです。裁判に発展することもありますので注意が必要です。

トラブルが発生する具体的な状況を理解するために、実際に裁判となった事例を3つ紹介します。事例をとおして、対処法も記載してあります。不動産を売却する前にチェックしておきましょう。

事例①:買主が建物の欠陥を訴えたケース(契約不適合責任)

土地付きの中古住宅を購入した買主が売主に損害賠償を請求した事例。このトラブルは「隠れた瑕疵」が原因で裁判に発展したケースです。

買主は、建物が斜めに傾いていることを引き渡し後に知り、売買契約時に説明がなかったことで契約不適合責任(隠れたる瑕疵)があると主張したうえで売主に損害賠償を請求。

裁判所は、売却前に瑕疵の確認を怠ったため、買主の要求を認めました。売主に対し調査にかかった費用と補修工事の費用、弁護士費用などの支払いを命じました。

売主に損害賠償が請求されていますが、通常、不動産会社は仲介する物件に瑕疵(雨漏りや建物の傾き)がないか、現地目視や売主から不具合の有無をしっかりと聞き取り確認することが重要です。引き渡し後に不具合が発見された場合、契約不適合免責特約のある売買契約でも責任を問われる可能性があるため、注意が必要です。

参考文献:2012年6月8日 東京地裁(判例時報2169号26号より)

この事例から学ぶべきポイント

このようなケースは「物理的瑕疵」に該当します。 物理的瑕疵には、家の傾き、建物の雨漏り、土壌汚染、シロアリの発生、地中障害物などが含まれます。

告知書に包み隠さず記載する」「売買契約書で契約不適合責任の免責条項を設ける」ことを必ずしておきましょう。

物理的瑕疵に関して、特に建物の瑕疵については、既存住宅売買瑕疵保険の加入をお勧めします。

既存住宅売買瑕疵保険は、買主が瑕疵を発見した場合に適用されます。
修繕費用を最大1,000万円まで保証する保険です。保証期間は最大で5年となります。

既存住宅売買瑕疵保険が付保されていると、買主に安心感を与えることができるでしょう。 築年数の古い不動産には、売却前に必ず付保しておくべきです。売却しやすくなります。

事例②:土地の調査不足による損害賠償請求(契約不適合責任)

土地付きの一戸建てを購入した買主が、購入して直後に地面の不等沈下(軟弱な地盤の上に建物を建てたとき、建物の重みで地中の水分が横に逃げ、水分の失われた体積の分だけ地盤が沈下し、徐々に建物が傾いていく現象のこと)により建物が傾いてしまい、生活に支障が出たことを理由に、売主と仲介業者に損害賠償を請求しました。

裁判所の判決は、売主には「隠れた瑕疵」に該当するとして売買契約の解除と売買代金の返却、さらに損害賠償を支払うように命じました。

そして、仲介業者には、土地(軟弱地盤)の調査と買主への告知を怠ったとして、不法行為に基づく損害賠償が命じられました。

土地付きの一戸建てや建物を売却する際、地面の調査も重要なポイントになります。もし土地に不具合(軟弱地盤など)があるなら、売買契約書を交わす前に買主に告知しなければなりません。

参考文献:2001年6月27日 東京地裁(判例集未登載より)

この事例からのチェックポイント

このようなケースは「環境的瑕疵」というものにあたります。
環境的瑕疵には、他にも該当するものがあります。

現象現象が起こる理由
日照・眺望を阻害するすぐ近くでビルなどの景観を妨げる建築計画があるなど。
心理的に忌避される墓地、葬儀場、風俗店、刑務所など
危険に感じるガスタンク、危険物貯蔵施設、危険物取扱工場、高圧線鉄塔、暴力団組事務所など
悪臭やばい煙を発生させるゴミ焼却場、火葬場工場、下水処理場、養豚・養鶏場など
振動、騒音を発生させる飛行場、鉄道、航空基地、大型車両が出入りする物流倉庫など

環境的環境的瑕疵についても、買主に告知しないとトラブルが発生する可能性が高まります。

売主が既に住んでいた持ち家の場合、環境に慣れていることが多いです。
このような環境を瑕疵と感じないことがある一方で、買主にとっては環境的瑕疵と捉えられることがあります。可能性のある施設については説明しておく必要があるでしょう。

環境的瑕疵の対処法も、物理的瑕疵と同様に、「告知書に正確に記載する」ことが重要です。「売買契約書で契約不適合責任の免責条項を設ける」という2点となります。

環境的瑕疵に関しても、知っていたにもかかわらず告げなかった場合は、免責条項によって契約不適合責任を免れることはできません。

環境的瑕疵に限らず、瑕疵は全て買主に告知するということが重要です。

事例③:不動産買取におけるトラブル

マイホームを買い替えるにあたり新居の購入を先行し、それまで住んでいた住宅の売却を仲介業者に依頼。しかし仲介での売却が上手くいかず、その仲介業者が買取ることに。

しかし、あまりにも安い価格で買い取られたため、この業者に対し売主は「買取金額が約束した一定の保証額を下回っている」として損害賠償を請求。

裁判所の判決は、そのような約束や契約を記す証拠がないと判断し、損害賠償の請求を却下。売主の主張は通らず、以前住んでいたマイホームを安値で手放すことになりました。

参考文献:1998年6月30日 東京地裁(判例集未登載より)

注意すべき要素と対策

不動産会社や買取業者が金額提示を言ったとしても、口約束で済ませては絶対いけません。証拠になるものを形として残す必要があります。

新居の購入を考えているのであれば、計画を立ててスムーズな売却を実行しましょう。マイホームの買い替えは計画性が重要です。

また、仲介で売れず買取になったとしても、あらかじめ買取金額を確認しておくことはとても大事です。業者に任せっきりにしないことも、不動産の売却でトラブルを防ぐ一つの手段です。

不動産売買におけるその他のトラブル事例

3つの事例のほかにも様々なケースは存在していますが、どのような時にトラブルが起こるのかを、チェックしておくことが大切です。

トラブル内容 
仲介手数料のトラブル仲介手数料は無料と言いながら、別項目(例:コンサルタント料)で高額な費用を請求してくる会社もあります。
土地の境界でのトラブル境界が問題となるのは、土地や戸建ての売買だけ。
境界が確定できない場合は、「筆界確認書が取得できなかった旨」と「3者立ち合いのもと境界確認を行ったことで筆界確認書の取得に代える旨」の合意書を締結しましょう。
残置予定物のトラブル設備されているもの、設備しないものを細かく(エアコン、ガスコンロなど、)売主自らが設備表にしっかりと必要事項を記載してください。

不動産売買は金額が大きいので、ちょっとしたことが問題となります。裁判にも発展するケースもあります。ご自身でも査定して売買するときの全体の流れ、注意点をしっかりと把握しておくと心配ありません。

まとめ:不動産売買のトラブルを避けるために

不動産会社が処理や確認を怠って売買に影響が出れば、売主も何かしらの責任を負わなければならない場合もあるのです。「不動産会社は専門職だから任せておこう」と安心することは注意しましょう。不動産会社が的確な処理で正しく売買するとは限りません。

確認不足のミス、ミスコミュニケーションがトラブルになる原因になることもあります。

不動産会社や仲介業者を選ぶときは、そうした注意点も踏まえて依頼することがおすすめですね。