被保佐人は自分で自宅を売却できる?

目次

  1. 被保佐人とは?
  2. 被保佐人が本人で自宅を売却する際の注意点
  3. 保佐人が代理で売却するには?
  4. まとめ

被保佐人とは?

「被保佐人」とは、精神障害により、判断能力が著しく不十分な状態であると、家庭裁判所から保佐開始の審判を受けた人です。精神障害には、知的障害などの精神疾患はもちろん、認知症なども含まれています。

民法では、精神障害によって判断能力が低下した人を、判断能力の低下の度合いに合わせて、「後見」「保佐」「補助」の3段階に分類します。後見は「常に判断能力がない」、保佐は「判断能力が著しく不十分」、補助は「判断能力が不十分」と定められています。

また、これらの判断能力の低下が見られる人を、法定代理人となって支援する人のことを、それぞれ「成年後見人」「保佐人」「補助人」と呼びます。そこから、支援を受ける人のことを「成年被後見人」「被保佐人」「被補助人」と呼ぶのです。

被保佐人は上述した通り、判断能力が著しく不十分な状態であると見なされているため、判断能力が低下している状態で契約などを行うことで、大きな損失を被ってしまう可能性が。そのため、被保佐人が一人でできる法律行為の範囲が制限されています。
民法13条で、保佐人には、被保佐人が行う法律行為の一部に、同意権および取消権が認められています。保佐人の同意権・取消権の対象になっている法律行為に関しては、被保佐人は一人で行うことができません。具体的には、以下に挙げる行為になります。

(引用:民法第13条 第1項)

この項では、被保佐人についての解説を行ってきました。次の項からは、実際に被保佐人が本人で自宅を売却する際の注意点や、保佐人が被保佐人に代わって、自宅を売却するための方法について、解説していこうと思います。

被保佐人が本人で自宅を売却する際の注意点

前項で上述しましたが、被保佐人は一部の法律行為について、保佐人の同意を得る必要があります。

被保佐人が自宅を売却することは、「不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること」に当てはまるため、保佐人の同意を得た上で、自宅の売却を進めます。保佐人の同意を得ている場合は、基本的に通常の不動産売買の流れと変わりません。

では、保佐人の同意を得ていない状態で、自宅の売却を行ったとしたらどうなるのかというと、売買契約が成立して、買主に家を引き渡していたとしても、その契約を取り消すことができます。法律行為は行った時点にさかのぼって、無効となります。契約が無効になるということは、売主は買主に対して、家を売却することで得た代金を返し、買主は売主に対して、家を返すということです。

原則、被保佐人は、保佐人の同意を得た上で法律行為を行うことが理想的ですが、上記のようなケースもあるというのが現状です。買主としては、せっかく購入した家を失う可能性があり、いつ契約を取り消されるか不安なまま過ごすのはストレスを感じてしまうでしょう。

そこで、民法では、契約の相手に法律関係を早期に安定させる手段として、「催告権」を与えています。催告権を行使することで、被保佐人側に対して、1カ月以上の期間を定めて追認するかどうかを催告することが可能です。被保佐人側としては「取消」か「追認」のどちらかを期間内に返答しなければなりませんが、民法では、期間内に返答がないケースに関しても定められています。

催告をする相手によって、返答がない場合の結果が変わります。相手が「保佐人」であった場合は、「追認」したものとしてみなされ、契約が結ばれた状態で確定します。相手が「被保佐人」であった場合は、「取り消された」ものとしてみなされ、買主と売主の双方で、契約が結ばれる前の状態に戻す必要があります。

契約が取り消されても、代金や引き渡しなど、すべて元通りに返すことができるのであれば良いのですが、そうはならないケースも存在します。

契約が取り消されると、法律上の原因がないのに取得している利益(不当利得)として返還請求の対象となりますが、民法では被保佐人などの制限行為能力者に対して、この不当利得返還義務に制限が設けられています。

民法121条では、「制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う」と定められています。どういうことかというと、不当利得は通常全て返還しなければならないのですが、制限行為能力者は「現に利益を受けている限度」(現存利益)だけを返還すれば良いということになります。

現存利益とは、利益を「そのまま保有している」、または、「形を変えて保有している」ということを意味しています。例えば、被保佐人が受け取った売買代金をそのまま保有していたり、借金の返済に使用したり、生活費に使ったりしても、現存利益はあると判断されるため、買主に対して売却代金の返還義務が生じます。しかし、被保佐人が売却代金を、ギャンブルに使うなどで浪費した場合には、その使ってしまった支出分は、現存利益に含まれず、返還の対象から除外されることになります。浪費に使ったものを返還しなくて良いというのは理不尽であると思われるかもしれませんが、浪費は利益が残らないと見なされるものであるため、利益の形が変わって保有しているということにはならないというのが結論です。

このように、契約を取り消された場合には、契約相手は被保佐人から不当利得の返還を正当に受けられない可能性があります。上記のようなことが起こらないよう、被保佐人との取引においては、保佐人の同意を得ているかどうか注意しておく必要があります。

被保佐人自身は、保佐人の同意を得てから、自宅の売却を進めるようにし、保佐人は被保佐人が一人で勝手に自宅を売却しないように注意を払うようにしましょう。また、買主として、被保佐人とやりとりを行う際は、保佐人の同意の上で、売却を行っているかどうかを前もって確認しておけば安心して家を購入することができるでしょう。

ただし、制限行為能力者(被保佐人など)が、完全な行為能力があると信じさせるために、書類を偽造するなどの詐術を用いた場合には、保佐人であっても取り消すことはできません。

保佐人が代理で売却するには?

被保佐人が、自身で売却する際の注意点に関して解説してきました。
この項では、保佐人が被保佐人の代理で家の売却を行うことはできるのかということを解説していきたいと思います。

保佐人は原則代理権をもっていない

保佐人は、被保佐人の特定の法律行為に関して「同意権」と「取消権」を持っていますが、被保佐人の代わりに法律行為を行う「代理権」は原則持っていません。
ただし、同意権・取消権の対象行為については、事前に家庭裁判所へ申請し許可をもらえたら、保佐人に対して代理権が付与される場合があります。
財産上の行為や、介護・保険の契約などの法律行為については代理権の付与が認められていますが、婚姻や子供の認知、遺言などについては、代理権の付与は認められていません。

また、代理権の付与は、法律行為の項目ごとに許可してもらう必要があります。
保佐人は、代理権を付与されたからといって、同意権・取消権の対象となる法律行為全てに代理権を持つわけではないということに注意しましょう。

保佐人に不動産売買の代理権が付与されたら

保佐人に不動産売買の代理権が付与されると、被保佐人名義の不動産の売買を保佐人が代理で行うことができます。
ただし、保佐人が勝手に売却してもいいということではありません。被保佐人の居住用不動産を売却する際には家庭裁判所へ許可をもらう必要があります。単なる財産の処分とは異なり、居住用の不動産を売却することは、本人の生活環境や心身に大きな影響を与える可能性があるため、保佐人とはいえ一人の意見だけで決められないようになっています。
基本的には、通常の不動産売買と変わりませんが、以下の2点には注意してください。

  • (1)保佐人として、被保佐人名義の不動産を売却する旨を不動産会社へ伝えること。
  • (2)売買契約の中に、「停止条件付取引」の条項をつけること。
  • 保佐人として、被保佐人名義の不動産を売却するときは、不動産会社が作成する書類が通常の不動産の売却と異なります。あとで、作成し直さなければならないという状態にならないようにあらかじめ伝えておきましょう。

    また、売買契約の中に「停止条件付取引」の条項は必ずつけてください。
    裁判所の売却許可が出た場合に限り、締結した契約が有効になるという特約になります。もし、許可が下りなければ正式な契約として成立しないということに両者が同意するものになりますので、後でトラブルになることを防ぐためにつけるようにしましょう。

    まとめ

    被保佐人は、保佐人の同意の元、自宅を売却することができます。もし、保佐人の同意を得ずに、被保佐人が独断で自宅の売却を進めてしまった場合は、保佐人によって契約を取り消すことが可能です。

    買主にとって、契約を取り消されることは不安に感じてしまうため、被保佐人として自宅の売却を検討している際は、保佐人の同意を得た上で、売却活動を進めるようにしましょう。


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