成年被後見人は自宅を売却できる?

成年被後見人とは?自宅の売却はできる?

成年被後見人とは、精神や健康の問題から正しい判断が厳しく、判断能力を欠いているとみなされ、家庭裁判所から後見開始審判を受けた人のことを指します。

被後見人は、本人一人での客観的な判断が著しく厳しい状態とされており、例えば、重度の認知症患者が当たるでしょう。そのため、家庭裁判所の判断を受けて、後見人のサポートが必要であると判断されているんです。

被後見人は、法的位置づけとして、日用品を購入するなどの日常生活に関連すること以外は原則取り消し可能とされており、それ以外の行為は後見人の同意の有無にかかわらず本人一人でできないとされています。

つまり、被後見人とみなされた人は、自宅の売却を本人だけで行うことはできません。
客観的な判断を行うことが難しいため、一人で勝手な行為を行って、トラブルになることを防がなければならないからです。

では、被後見人が名義の住宅などは売却できないのかと言われれば、そういう訳ではありません。後見人として認められた人が、家庭裁判所の許可を受けて、売却を進めることが可能です。

この記事では、後見人の選定、後見人が被後見人の代わりに住宅を売却するための手続き、その注意点について、解説していきます。

後見人はどうやって選ばれる?

成年後見人は、成年後見制度を利用して、選ばれます。
成年後見制度とは、認知症などの脳障害や精神障害、知的障害などの理由で、自己判断能力が不十分である人をサポートしていくための制度です。この制度は、2000年に導入された制度で、以下の3つの理念によって支えられています。

  • (1)ノーマライゼーション
  • (2)自己決定の尊重
  • (3)身上配慮義務

1つ目の「ノーマライゼーション」は、高齢者や障害者を特別扱いせず、これまでと同じような生活を送ってもらうことを目指すということです。

2つ目の「自己決定の尊重」は、本人の意思を尊重するということ。一人での客観的な判断が難しくなったとしても、本人が希望すること、それに対しての意思決定を尊重するようにします。

3つ目の「身上配慮義務」とは、本人の状況を把握し配慮するということです。後見人は、被後見人の財産管理などがメインの仕事ですが、それだけではなく本人の生活を支えていくということも役割となっています。

では、成年後見人がどのように選ばれるのかを見ていきましょう。

成年後見制度の種類

成年後見制度には、「任意後見制度」と「法定後見制度」の2つがあります。これらの制度は、「現在の判断能力」に応じて使い分けられます。

任意後見制度は、今は元気だが、将来的に判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめサポートしてほしい人を選んでおく時に利用されます。

法定後見制度は、既に判断能力が低下している人に対して、サポートする人を選ぶ際に利用されます。

成年後見人になれる人

成年後見人は、本人との関係性や資格を保有しているかどうかにかかわらず、原則誰でもなることができますが、民法847条で定められている後見人になることができない人に該当する場合は、成年後見人になることはできません。後見人になることができない人は、以下の5つに該当する人になります。

  • (1)未成年者
  • (2)家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
  • (3)破産者
  • (4)被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
  • (5)行方の知れない者

成年後見人が選ばれるまで

成年後見人が選ばれるまでの流れを見ていきましょう。任意後見制度と法定後見制度では、後見人の選任の流れが異なります。成年後見制度を利用されるほとんどの方が、法定後見制度を利用しているため、本記事では、法定後見制度を取り上げましょう。流れとしては大きく3ステップになります。

  • (1)後見開始の審判を申立てる
  • (2)家庭裁判所により調査され、必要があれば医師の鑑定を受ける
  • (3)法定後見人が選任される

詳細を見ていきましょう。

(1)後見開始の審判を申立てる

成年後見人を選任したいということを、家庭裁判所に申立てます。申立てを行うことができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、検察官などが挙げられます。申立て先の裁判所は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。

詳細な手続き方法や、管轄裁判所は、裁判所のホームページでご確認ください。
参考:裁判所「成年後見制度に関する審判」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_02_2/index.html

参考:裁判所「裁判所の管轄区域」
https://www.courts.go.jp/saiban/tetuzuki/kankatu/index.html

(2)家庭裁判所により調査され、必要があれば医師の鑑定を受ける

申立てが受理されたら、後見人の選任を許可するかどうかを判断するために、裁判所が調査を行います。親族同士の争いがないかどうかなども、調査される内容になります。本人の判断能力の程度を医学的に十分に確認するため、医師による鑑定が行われる可能性もあるでしょう。

(3)法定後見人が選任される

家庭裁判所から後見人として適切であると判断された場合は、成年後見人として選任され、審判内容の登記が行われます。申立てから審判までは、一般的に2ヶ月くらいかかります。
法定後見制度では、親族を後見人候補とすることはできますが、そのまま選任されるかどうかはわかりません。誰を後見人にするかは家庭裁判所が決定します。また、この決定に関して、不服申立てなどはできません。

成年後見人が被後見人の家を売却するには

成年後見人が選任されれば、被後見人の名義で保有されている家を売却できるようになります。しかし、通常の不動産売却とは異なる手続きが必要となるため、注意が必要です。後見人として選任されたからといって、後見人の独断で売却することはできません。ここでは、後見人が被後見人の家を売却するための流れに関して、解説していきたいと思います。
流れとしては、以下のようになります。

  • (1)不動産会社と媒介契約を結んで不動産を売り出す
  • (2)居住用不動産の場合は裁判所の許可を得る
  • (3)買主と売買契約を結ぶ
  • (4)代金の決済、物件の引渡し

各項目について、詳細を確認していきましょう。

(1)不動産会社と媒介契約を結んで不動産を売り出す

一般的な不動産売買と同様に、不動産会社を探して、売却を依頼するための「媒介契約」を結びます。媒介契約を結ぶ際は、後見人として被後見人の名義で保有されている不動産を売却するという旨を伝えます。不動産会社が作成する書類を作成するにあたって必要な情報となりますので、忘れないように注意しましょう。

媒介契約を結ぶ不動産会社は成年後見人が自由に選べますが、身上配慮義務を果たすことができるよう、できるだけ高く、かつスムーズに売ってくれる不動産会社を選ぶようにしてください。

不動産の査定額は、不動産会社によって異なり、数百万円も変わってしまうこともあります。複数の不動産会社に相談して、十分比較してから決めるようにしましょう。その際は、「一括査定サービス」を利用することで、簡単に複数の不動産会社に対して、査定の依頼を出すことができます。

(2)居住用不動産の場合は裁判所の許可を得る

被後見人の居住用の不動産を売却するためには、家庭裁判所の許可が必要となります。後見人は身上配慮義務を果たす必要があるため、後見人の都合で売却することはできません。被後見人の利益になるための理由がないと売却の許可がおりません。

裁判所の許可を得るために、「居住用不動産処分の許可の申立て」を行います。もし、裁判所の許可を得ないまま、居住用不動産の売買契約を結ぶと、契約が無効となってしまいます。居住用以外の不動産の場合は、裁判所の許可は不要です。

参考:裁判所「居住用不動産処分の許可の申立てについて」
https://www.courts.go.jp/wakayama/l2/l3/l4/Vcms4_00000133.html

(3)買主と売買契約を結ぶ

家庭裁判所の許可がおりたら、被後見人に代わり、成年後見人が売買契約を結びます。
なお、居住用不動産の売却を進めるにあたって、家庭裁判所の許可が下りる前に、「裁判所の許可が得られた場合に契約の効力が発生する」という特約を付けて売買契約を結ぶケースもあります。

(4)代金の決済、物件の引渡し

一般的な不動産売買と同様に、買主との間で、代金の決済を行い、鍵の受け渡しや、物件の引き渡し、所有権移転登記などが全て済めば、家の売却は完了です。

まとめ

成年被後見人とは、精神や健康の問題から正しい判断ができず、判断能力を欠いているため、家庭裁判所から被後見人として判断された人は、本人だけでは自宅の売却を行うことができません。本人が一人で契約を進めてしまうと、大きな損をする可能性があるため、法的位置づけとして、日常生活に関連する事柄以外は、本人一人で行えないようになっています。もし、契約などを行ってしまったとしても、後見人によってその契約を取り消すことが可能です。

被後見人の名義で保有されている不動産を売却する際は、成年後見制度を利用して選任された後見人に代理で行ってもらう必要があります。一般的な不動産売買と異なり、被後見人が現在住んでいる住宅を売却するには、家庭裁判所に許可をもらう必要があります。許可を得るためには、被後見人にとって利益となる理由が必要となり、もし認められなければ売却することができません。居住用の不動産でなければ、裁判所の許可は不要になります。