高齢者が家を手放す前に考えること

老後のために自宅を売却したほうがいいのか?

結論:売却以外にも選択肢はある。将来のことを考え、どういう選択をしたいのか慎重に考える必要がある。

子供も親元から離れ、家を出て、私たち親世代もリタイアし、定年後に夫婦2人だけで生活するという家庭も増えています。将来を考えると、「老後の介護などにかかる費用の捻出」や「子どもへの相続」、「住んでいる家をどうするか」など、悩ましい問題が多く出てくることかと思います。どうしていいのか分からないと不安に思うこともたくさんありますよね。特に家については、老人ホームや高齢者施設に入所した後、空き家として放置されるという問題はメディアでもよく取り上げられています。近い将来、子供たちを悩ませる問題となってしまう可能性もあります。子供たちが困らないように、住んでいる家を、どうしていけばいいのかということをこの記事では説明していきます。

【選択肢①】完全に売却する

「自宅」という資産は、老後資金や介護資金の重要な柱になっています。そのため、貯金や年金でまかないきれない老後資金や介護資金を捻出する必要がある場合、自宅を売却して現金化することを考えます。
今はまだ資金的な問題に直面していなくても、介護が必要になったときなどに売却すると決めているかもしれません。しかし、タイミングを見誤ってしまうと、簡単に売却できなくなる可能性があります.。もし、認知症などが発症してしまうと、判断能力がないとされ、本人名義の不動産を売却できなくなるケースがあります。もし、検討しているのであれば、早くから対策を打っておく必要があります。成年後見制度を使用することで売却することができますが、「法定後見制度」を使用した場合だと、家庭裁判所が売却の許可を確実に出してくれるとは限らないため、注意してください。持ち家を売却するメリット、デメリットについて見ていきましょう。

【メリット①】 好きな場所に引っ越すことができる

保有している不動産を売却することで、賃貸住宅に住むことになります。自分の住みたい家、住みたい街を選択することができることはメリットでしょう。金銭面で問題が発生しても、家賃や物価の安い地域に引っ越して支出を減らすことができます。

【メリット②】家族構成が変化した際、柔軟に対応することができる

賃貸住宅の場合、家族構成を考慮して、適した間取りの家に引っ越すことができます。家族構成に変化があり、使わない部屋があったり、間取りに不満があったりする場合、自身のニーズに合わせられるため、年齢や好みに柔軟に対応することができます。子供が親元を離れ、夫婦2人だけになった際、今までよりコンパクトな住まいを選択したり、老後の暮らしを考えてバリアフリーや階段に手すりが付いている物件、設備面が整っている住まいを洗濯して、住むことができます。

【メリット③】家の相続でトラブルが起きない

家の保有者が亡くなったときは、一般的にその配偶者や子どもがその持ち家を相続することになります。このとき、相続する人に多額の相続税が発生する可能性があります。この多額の相続税や、誰が相続するかでトラブルになるということは珍しくありません。そういった事態に備えることができます。

【メリット④】メンテナンスのコストがかからない

持ち家の場合、築年数が古くなるにつれて修繕費も高くなり、数百万円程度かかってしまう可能性もあります。日本は地震や台風などの自然災害が多い国であるため、損壊した場合などの修繕費を自身で捻出することになります。一方、賃貸住宅はそのコストがかかりません。賃貸の修繕費用や維持費は基本的に大家が負担することとなっているためです。

【デメリット①】家賃の支払いが必要

持ち家を売ってしまうため、賃貸住宅に住むことになったり、老人ホームに入所することになるため、家賃やサービス料の支払いが必要になります。

【デメリット②】気軽にリフォームできない

持ち家であれば、自身の好きなようにリフォームを行うことができますが、賃貸住宅などでは大家さんの許可がおりなければ、リフォームをすることができません。不便であっても、我慢するしかありません。また、便利なところに引っ越すという選択肢もありますが、便利さを追求すればするほど、賃料や管理費などは高くなっていく傾向にあります。

【デメリット③】高齢であるがゆえに貸りられないことがある

心苦しいですが、家賃の支払いや認知症の不安などで高齢者が敬遠されることがあります。病気によって入居している部屋で亡くなることを危惧する大家もいます。また、老後は体力が低下するため、段差が多かったり、エレベーターが無かったりする家では暮らしにくいかと思います。そのため、高齢者でも住みやすい家を探すことになっても、中々見つけられないということもありえます。若いときと同じ感覚で賃貸に住めると考えていると、老後に大変な思いをしてしまうので、注意が必要でしょう。

【デメリット④】相続できる資産が減る

持ち家を売却してしまうことで、相続できる資産が減ってしまいます。賃貸に住んでいることで、家賃の支払いが発生してしまうため、老後の収入が無ければ貯金も減ります。 子どもに資産を残してあげたいと考えているのであれば、家を売る前に慎重に検討しましょう。家を売って得たお金を金融資産などとして保有することも考えられるでしょう。

【選択肢②】リースバックを利用する

リースバックとは、自宅を売却したのち、家賃を支払うことで今まで住んでいた家に住み続けられるサービスです。自宅を売却するという選択肢と似ていますが、持ち家として不動産を保有するのではなく、売却することでまとまったお金を手に入れた後、同じ家を賃貸住宅として住むことができます。生活費に困っていなくても、老後の不安を少しでも解消することができるかと思います。リースバックを利用するメリット、デメリットについて見ていきましょう。

  • 年齢制限や年収制限なし
  • 売却した自宅を再度購入することが可能
  • 賃貸になるので、固定資産税・都市計画税や、マンションの場合は管理費・修繕積立金がかからない
  • 引越し費用や保証人が不要

【メリット①】まとまったお金を確保することができる

持ち家を売却することになるので、まとまったお金を確保することができます。不動産会社が直接買い取ってくれるため、1,2ヶ月で現金化することができます。売却したお金は何に使用しても、本人の自由です。似たようなサービスにリバースモーゲージがありますが、そちらは売却して得たお金の使い方に制限があります。

【メリット②】売却しても、今までと同じ家に住み続けることができる

不動産を売却したいが、今の家にもう少し住み続けたいという時に、売却してしまうともう住めませんが、リースバックを利用することで、住み続けることができます。ただし、注意点としては、死ぬまで住み続けられるかどうかは分かりません。リースバックの賃貸借契約には、「定期借家契約」と「普通借家契約」の2種類があります。定期借家契約の場合は再契約できる保証がなく、2〜3年の契約期間満了後に退去しなければならないかもしれません。できるだけ長く住み続けたい場合は、普通借家契約が可能な運営会社を選ぶと安心です。運営会社を選ぶ際に、注意しましょう。

【メリット③】周辺の賃料の相場より家賃を安く設定することもできる

リースバックの家賃は不動産の売却価格で決まり、売却価格が安くなると家賃も安くなります。運営会社と交渉して売却価格を抑えることができれば、周辺の賃料相場より家賃をかなり安く設定することも可能です。ただし、売却価格を抑えすぎると調達できる資金が少なくなってしまうことになります。リースバックの家賃を安くしたい場合は、売却価格との兼ね合いを考え、運営会社に相談するようにしましょう。

【メリット④】家を保有しているよりも、生活保護を受けられる可能性が高くなる

不動産を所有していると生活保護を受けられないことがあります。これは不動産を所有していれば、不動産の売却資金で生活することができるからです。住宅は売却すれば数百万円〜数千万円の資金になるので、生活保護を受ける対象になりづらいということには、一定の合理性はあります。しかし、高齢者や病気・障害などを抱えていて、生活に困っていても転居を検討できない方も少なくありません。この場合、生活に困窮しても生活保護も受けることができないという困難な状況に陥ってしまいます。
生活保護の受給でネックとなっているのは「住宅の所有権」があるかどうかです。つまり、リースバックで住宅を売却すれば、所有権は不動産会社に移るため、生活保護を受けやすくなります。先述した通り、リースバックであれば住宅に住み続けることもできます。なお、売却時にまとまったお金が手に入るため、「貯蓄額の高さ」を理由に生活保護が受けられなくなる可能性も出てきますが、そもそも生活費としてのお金を作ることができたため、生活保護を申請する理由もなくなるでしょう。

【デメリット①】住宅ローン残債がありリースバックによる売却資金で完済できない場合、

利用できない。
住宅ローンが残っていると住宅には金融機関が住宅の抵当権をもっているため、一般的にリースバック契約は成立させることができません。

【デメリット②】所有権が本人以外にもある場合は、全員の承認を得られなければ利用できない

リースバックは、その不動産の所有者全員の承認がなければ、契約ができません。自分のみが所有権となっている住宅では問題ありませんが、所有権が子供になっている、もしくは親族間での共有名義になっている場合は、それぞれの名義人に承認をもらう必要があります。リースバックを検討する際には、住宅の名義人を把握した上で、共有名義となっている方に事前に承認を得ておきましょう。

まとめ

今まで住んできた家であるため、愛着もあって、なかなか決断しにくいのが自宅の売却です。しかし、定年後の老後資金や介護資金を捻出するに当たって、子どもたちへの負担を軽減するということを考えると、しっかりと検討する必要があります。売却をする際には、複数の業者から査定をとって、信頼できる不動産会社を選びますが、最後はあなた自身の経験からくる直感で選ぶことになるでしょう。後悔のない売却ができるようにしたいものです。
売却しても、愛着のある家に住み続けたい時は、「リースバック」などのサービスを使用することも検討しましょう。